『古事記』
『古事記』真福寺本-上-k06~
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『古事記』真福寺本-下-k31~
(『古事記』真福寺本-上-k06)†
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天地初發之時於髙天原成神名天之御中主神訓
髙
下天云阿麻
下放此次髙御座巣日神次神産巣日神此三柱神者並独
神成唑而隠身也次國稚如浮脂而久羅下那州多[阝色]用流
之時流字以上
十字以音如葦牙固萌騰之物而成神名宇摩志阿斯訶
備比古遲神此神名
以音次天之常立神訓常云登許
訓立云多知此二柱神亦並獨
神成唑而隱身也
―――――
上件五柱神者別天神
次成神名国之常立神訓常立
亦如上次豊雲上野神此二柱神亦獨神成
唑而隱身也次成神名宇比地迩上神次妹須比智迩去神此二神
名以音次
䇶材神次妹活材神二柱次意冨斗能地神次妹大斗乃弁神此二
神名
忽以
音次於母[阝色]流神次妹阿夜上訶志古泥神此二神名
皆以音次伊那岐神次
妹伊耶那美神此二神名亦
以音如上
――――――――――
天地初發之時 於高天原成神名 天之御中主神 訓高下天云阿麻下效此
次高御産巣日神 次神産巣日神 此三柱神者 並獨神成坐而 隱身也†
天地初めて発し時、高天原に成りませる神の名は、天之御中主神 高の下の天を訓みて阿麻と云う。下は此に效え。
- 注に従えば、高天原はタカアマハラ。日本書紀では「高天原」は本文には無く、一書の4に一度出るだけ(慶長4年刊版p4)。
大祓詞には出てくる。タカマノハラという読み方は比較的近年の読み方とされる。
- 安万呂の序では「天地」を「乾坤」としている。
- 神は成るもので、生まれるものではないという概念。成るは成立するのであるから、元のものから変化して成る。
例えば「王に成る」と云うのが近いように思う。
次に高御産巣日神。次に神産巣日神。此の三柱の神は、並に獨神と成り坐して、身を隱しましき。
- 安万呂の序では「三柱神」を「参神」としている。細かなことではあるが、上の「天地」の書変えも併せ、こういう書変えがあるのは、果たして安万呂が本文作成に関わったのかという疑問を生む理由になる。
次國稚如浮脂而 久羅下那洲多陀用幣流之時 流字以上十字以音
如葦牙因萌騰之物而成神名、宇摩志阿斯訶備比古遲神 此神名以音
次天之常立神 訓常云登許訓立云多知
此二柱神亦 並獨神成坐而 隱身也†
次に、国稚く浮ける脂の如くして、久羅下那洲多陀用幣流時、流の字より以上の十字は音をもちいる
葦牙の如く萌え騰る物に因りて成ませる神の名は、宇摩志阿斯訶備比古遲神此の神の名は音をもちいる。
- 浮かぶ脂の如く、クラゲのように漂える、と云うのであるから水上に浮かんでいるイメージであろう。
が、国であるから、境界が定まらず不安定と云うような意味であろう。
葦牙が萌出るのは、水中からであろうから、葦牙により、漂うことが止まったと云うことであろう。
次に天之常立神 常を訓みて登許と云う。立を訓みて多知と云う
此の二柱の神も、並に独神と成り坐して、身を隠しましき。
上件五柱神者 別天神†
上の件の五柱神は、別天神
- 天之御中主神・高御産巣日神・神産巣日神
宇摩志阿斯訶備比古遲神・天之常立神
- 記す必要もないのだが、どこぞでは、「別天神」を「別天津神」と記している。上の画像に「津」はない。念の為。
(神代七代)
次成神名 國之常立神 訓常立亦如上
次豐雲上野神
此二柱神亦 獨神成坐而 隱身也†
次に成りませる神の名は国之常立神常立を訓むことも上の如し
- 天之常立神と国之常立神を、別途に分けているのは、国之常立神以降が地上の神という位置づけであろうか??
とすれば別天神と云うのは特別な天神という意図か??
次に豊雲野神。
- 上の字は「上声」としている。上声=四声の一つ。尻上がりに高く読む。
- にしては上の字が大きい。トヨクモ↑ノノカミで正しいのか疑問。表記通りに読めば「トヨクモカミノカミ」。
書記本文では豊斟渟尊
此の二柱神も独神と成りまして、身を隠しましき。
- ここ迄の神は皆、「獨神成坐而 隱身也」。
「独神」は通常、伴神が居ないと理解されているが、「隠身」が常に付随していることを考えると、後継者が居なかったという意味なのではないかとも思える。
つまり神の地位は引き継がれなかったと云うことを意味しているようにも思える。
又、独神・隠身とありながらも、日本書紀等に高御産巣日神・神産巣日神・天之常立神には名は違うが同じ神と見なして子孫があったように記される例があるのは疑問のあるところ。
次成神名 宇比地邇 上神
次妹須比智邇 去神 此二神名以音†
次に成りませる神の名は、宇比地邇神。
次に妹須比智邇神 此の二はしらの神の名は音を以いる
次角杙神 次妹活杙神 二柱†
次に角杙神、次に妹活杙神 二柱
次意富斗能地神 次妹大斗乃辨神 此二神名亦以音†
次に意富斗能地神、次に妹大斗乃辨神 此の二はしらの神の名も亦音をもちいる
次淤母陀流神 次妹阿夜 上訶志古泥神 此二神名皆以音†
次に淤母陀流神、次に妹阿夜訶志古泥神 此の二はしらの神の名は皆音をもちいる
次伊那岐神 次妹伊耶那美神 此二神名亦以音如上†
次に、伊那岐神、次に妹伊耶那美神 此の二はしらの神の名も亦音をもちいること上の如し
- この部分では「伊那岐神」であって、通常用いられる「伊邪那岐」の「邪」は無い。
又通常用いられる「伊邪那美」についても「邪」ではなく「耶」もしくは[百阝]に見える。
- 「訂正古訓古事記」では「邪」を用い「ザ」と読んでいる。該当頁
上件自国之常立神以下 伊耶那美神以前 并稱神世七代 上二柱獨神 各云一代 次雙十神 各合二神云一代也†
上の件の国之常立神自り以下、伊耶那美神より以前、并せて神世七代と称う。 上の二柱の獨神は、各一代と云う。次に雙べる十神は、各二神を合わせて一代と云う。
於是天神 諸命以 詔伊耶那岐命 伊耶那美命二柱神 修理固成是多陀用幣流之國†
是に天つ神、諸命以ちて、伊耶那岐命、伊耶那美命の二柱神に詔らさく、是の多陀用幣流之國を修理め固成せ。
- ここでは、伊耶那岐命、伊耶那美命となっている。伊耶那岐と「耶」が付き、共に「神」から「命」に変わっている。
- 天神が那岐・那美の2神に詔したと云うわけだが、この「天神」が誰なのかは不明。五柱の別天神は既に身を隠している。
- イザナギ・イザナミについて、これまで汎用される「伊邪那岐」「伊邪那美」を用いていたが、上記のように「邪」は用いられて居らず「耶」が用いられている。
「邪」という悪字を誰が用い始めたかは不明だが(宣長か)、これを期に伊耶那岐(イヤナキ)・伊耶那美(イヤナミ)を用いるようにする。
(暫くは併用)
(『古事記』真福寺本-上-k07)†
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賜天沼矛而言依賜也故二柱神立訓並云
多ゝ志天浮橋而指下其沼矛以
盡者鹽許々袁々呂々迩此七字
以音盡鳴訓鳴云
那志々而引上時自其矛末
垂落之鹽累積成嶋是淤能碁呂嶋自淤以下
四字以音於其嶋天降坐
八尋殿事
而見立天之御柱見立八尋殿於是問其妹伊耶那美命曰汝身
者如何成答曰吾身者成ゝ不成合處一處在故以此吾身成餘尒伊耶那岐命詔我身者成ゝ而餘處一處在
處刺塞汝身不成合處而以爲生成国土生奈何訓生云宇
牟下效此伊耶那
美命答曰然善尒伊耶那岐命詔然者吾与汝行廻逢是天之御
柱而爲美斗能麻具波比此七字
以音如此之期乃詔汝者自右廻逢我
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者自左廻逢約竟以廻時伊耶那美命先言阿那迩夜志愛上
袁
登古袁此十字以
音下效此各言竟之後告其妹曰女人先言不良雖然久美
度迩此四字
以音興而生子水蛭子此子
者入葦船而流去次生淡嶋是亦
不入子之例於是二柱神議云今吾所生之子不良猶宜白天神之
御所卽共參上請天神之命尒天神之命以布斗麻迩尒上此五
字以音
卜事
卜相而詔之因女先言而不良亦還降改言故尒降更往廻其
天之御柱如先於是伊耶那岐命先言阿那夜志愛袁登賣
袁後妹伊耶那美命言阿那迩夜志愛袁登古袁如此言竟
──────────
賜天沼矛而言依賜也†
天沼矛を賜いて、言依さし賜う也。
故 二柱神立 訓並云多々志 天浮橋而 指下其沼矛以畫者†
故、 二柱ノ神 天浮橋に立たして(訓みを並びて多々志と云う) 其の沼矛を指し下ろして画かせば
鹽許々袁々呂々迩 此七字以音 畫鳴 訓鳴云那志 而†
鹽許袁呂許袁呂に(この七字は音を以いる)画き鳴て、(鳴を訓みて那志と云う)
- 許々袁々呂々…重字の「々」。上古の用法で現代と異なり「許袁呂許袁呂」を表す。
引上時 自其矛末垂落之鹽累積 成嶋 是淤能碁呂嶋 自淤以下四字以音†
引き上げます時、矛の末より垂落る鹽の累積り、 嶋と成りき。是れ淤能碁呂嶋なり。(淤より以下の四字は音を以いる)
於其嶋天降坐而 見立天之御柱 見立八尋殿†
其の嶋に天降坐て 天之御柱を見立て、八尋殿を見立てましき。
於是問其妹伊耶那美命曰汝身者如何成†
於是、其の妹伊耶那美命に問いて曰らさく。汝身は如何成れる。
- i文庫では「伊邪那美命」と「邪」に変えて用いている。
- 岩波日本思想大系では「伊耶那美命」と記し、「耶」を「ザ」と読んでいる。
- i文庫は岩波日本古典文学大系を元にしていると記しつつ、改変の理由説明は無い。
答曰吾身者成ゝ不成合處一處在†
答へて曰く、吾身は成ゝて成合ざる處 一處在り。
(尒伊耶那岐命詔我身者成ゝ而餘處一處在)†
尒て、伊耶那岐命詔らさく、我身は成ゝて餘れる處一處在り
- この一文は書影では挿入文
- 岩波日本思想体系は底本を真福寺本としながらも、その旨の注記はない。
- i文庫では「伊邪那岐命」と「邪」に変えて用いている。
- 岩波日本思想大系では「伊耶那岐命」と記し、「耶」を「ザ」と読んでいる。
- 岩波日本思想大系では「我身」を「アガミ」と読んでいる。
故以此吾身成餘處刺塞汝身不成合處而以爲生成国土生奈何 訓生云宇牟下效此†
故、此吾身の成餘れる處を以ちて、汝身の成合ざる處を刺し塞ぎて、国土生み成さむと為す、生むこと奈何 (生を訓みて宇牟、下此に效え)
- 「以爲」をi文庫・岩波日本思想大系では共に「おもふ」と読んでいる。
- 「おもふ」はないだろ。「以」は接続辞と考え略す。あえて記せば「以て~為す」。
伊耶那美命答曰然善†
伊耶那美命答へて曰く。然善けむ。
尒伊耶那岐命詔然者 吾与汝行廻逢是天之御柱而 爲美斗能麻具波比此七字
以音
如此之期乃詔汝者自右廻逢我
者自左廻逢約竟以廻時伊耶那美命先言阿那迩夜志愛上
袁
登古袁此十字以
音下效此各言竟之後告其妹曰女人先言不良雖然久美
度迩此四字
以音興而生子水蛭子此子
者入葦船而流去次生淡嶋是亦
不入子之例於是二柱神議云今吾所生之子不良猶宜白天神之
御所卽共參上請天神之命尒天神之命以布斗麻迩尒上此五
字以音
卜事
卜相而詔之因女先言而不良亦還降改言故尒降更往廻其
天之御柱如先於是伊耶那岐命先言阿那夜志愛袁登賣
袁後妹伊耶那美命言阿那迩夜志愛袁登古袁如此言竟
(『古事記』真福寺本-上-k08)†
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生国給事
而御合生子淡道之穗之使別嶋訓別云和氣下效此次生伊豫之二名嶋此
嶋者身一面有四四毎而有名故伊豫國謂愛上比賣此三字以音下效此也讚岐
国謂飯依比古粟國謂大宜都比賣此四字以音土左國謂建依別次
生隱伎之三子嶋亦名天之忍許呂別許呂二字以音次生筑紫嶋此嶋
亦身一而有面四毎面有名故筑紫國謂白日別豐國謂豐日
別肥國謂建日向日豐久士比泥別自久主泥以音熊曽國謂建日別曽字以音
次生伊岐嶋亦名謂天比登都柱自比至都以音爪天如天次生津嶋亦名謂天之
狹手依比賣次生佐度嶋次生大倭豐秋津亦名謂天御虛空
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豐秋津根別 故回此八嶋先所生謂太八嶋國然後還坐之時生
吉備兒嶋亦名謂建日方別次生小豆嶋亦名謂大野牛上比賣
次生大嶋亦名謂大多麻上流別自多至流以音次生女嶋亦名謂天一根訓天如天
次生知訶嶋亦謂天之忍男次生兩兒嶋亦名謂天兩屋自吉備兒嶋至天兩
生神事屋嶋幷六嶋既生國竟更生神故生神名大事忍男神次生石土毘吉
神爪石云伊波亦毘古二字以音下效此〃次生石巣比賣神次生大戸日別神次生天之
須上男神次生大屋毘古神次生風木津別之忍男神訓風云加耶訓木以音次生
海神名大綿津見神次生水戸神名速秋津日子神次妹速秋
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(『古事記』真福寺本-上-k09)†
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津比賣神自津比賣神并十神大事忍男神至秋此速秋津日
子速秋津比賣二神因河海持別而生神名沫那藝神那藝
二字
水分神
以音下
效此次沫那美神那美二字以
音下效此次頬那藝神次頬那美神次天之
水分神訓分云久麻
理下效此次國之水分神次天之久比大者母智神自久以下五
字以音下
風神
效
此次國之久比奢母智神自沫那藝神至國之久
比奢母智神并八神次生風神名志那都
山神 次生木神名久ゝ能智神此神名
以音
法古神此神名
以音次生山神名大山上
津見神次生野神麻屋
野比賣神亦名謂野椎神自志那都比古神
至野椎并四神此大山津見神野
椎神二神因山野持別而生神名天之使土神訓土云豆
知下效此次國之
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使土神次天之使霧神次國之狹霧神次天之闇戸神次
大戸惑子神訓惑云麻刀
比下效此次大戸惑女神自天之使土神至大
戸惑女神并八神也次生神名
大宜都比賣
鳥之石楠船神亦名謂天鳥船次生大宜都比賣神此神名
以音次
生火之夜藝速男神夜藝二
字以音也亦名謂火之炫毘古神亦名謂
火之迦具土神迦具二
字以音因生此子美蕃登此三字以音見炙而病臥在多
具理迩此四字
以音生神名金山毗古神訓金云迦
那下效此次金山毗賣神次於屎
成神名波迩夜須毘古神此神名
以音次波迩夜須毗賣神此神名
亦以音次
於尿成神名旀都波能賣神次和久産巢日神此神之子謂
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(『古事記』真福寺本-上-k10)†