何故に
学校帰りに、
静かな風が私の傍を吹き抜ける。
自転車に乗った少女が軽く会釈をしながら通り過ぎる。
私が返す会釈に気づいているのだろうか。
後ろ姿を追ってはならないような気がして、
私は足元の小石を蹴転がす。
その子は着替えをすませて、私の家に来る。
受験のための家庭教師。
母親たちが取り決めたこと。
並んで問題を解くのだけれど、
気恥ずかしくて口をきくこともなく時が過ぎる。
6年の後、君から届いた手紙は私を驚喜させ、
少しの自信と深い自己嫌悪をもたらした。
「おやつにいただくジュースが楽しみでした」
今少しの勇気が私にあれば、
校区を越えて通っていた君。
両親の転勤に、下宿暮らしを選択した君。
髪の長い子は好きではないと叩いた私の軽口を、
どこで耳にしたのか、黒髪を切った君。
そんなことを後になって気づくほどに私は愚かで幼かったのだ。
連弾したいと記した君は音大に行き、私は放蕩に出る。
君が戻ってきた頃、私はもう故郷を棄てていた。