『那賀郡史』
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[[文献]]
''『那賀郡史』''
石見地方の地誌
那賀郡は浜田と江津の江ノ川下流域を併せた地域。
那賀郡共進会展覧会協賛会 編・出版/大正5年刊
国会図書館デジタルコレクション[[「那賀郡史」:http://dl.nd...
----
(70コマp74)
~
神代の昔、石見の国はし浦(当時地名ありしにあらず)に漂...
こに住む翁の目にとまれり。
板を木釘もて縫合せて造れる今日の朝鮮の小船に似たるも...
こぶねとはいいけん。
あやしみて、妻なる媼を呼びて共に見れば、年の頃六つ七つ...
わすが唯ひとり乗り給いて、中には柏の葉二つ三つ散れる外何...
何しに来たまいつると問うに、何事も語りたまわで、東の方を...
(70コマp75)
雄見尊の御裔にして、濱邊にて乗遊び居たまいけるが、海中に...
面やつれもせで、我が浦に著きまししぞ幸なるといへば、媼、...
んとにやあらんといへば、翁、美しくも云いけるかな。さらば...
姫に問えば、うなづきたまふ。翁媼躍りあがりて喜び、手を取...
こと限りなし。
翁媼の箸は使わるる限り改めざりしに、姫には、篠の心に...
らるべし。
あたりの者傳へ聞きて、参り拝み、遂にわれ等が神とあがめか...
姫か、しのをすのといひたまひければ、此のあたり、篠原...
ふなり。
又姫か我をあといひませるにより、此のあたりの者みなあ...
も知らる。
月日かさなりて、姫のねびたまふにつれ、益々美しく高貴に...
へおわして、げに鷄の群の鶴の如く、誰が目にも、凡庸の種な...
母慕わしの心起しまさんを恐れて、何事をも問わず、姫も亦い...
こゝに来ましゝわけなど、問いまつる人ありとも、口をつぐみ...
れつる如く、くらし玉ひけり。
唯、夜毎に起き出でて出雲の方を眺めますぞ怪しき。問いまつ...
(71コマp76)
しげきが我病なりと答へ給う。
かくて姫が十三になります極月の夜中、出雲の岬に方りて、...
媼にむかひ、彼の火のあがるは、故國に寇の來れる知らせなれ...
小くて此處に來り、年頃養い育てられつるを、今にはかに別る...
たまふ。翁媼とりすがりて、我等年老いて樂しく長らへつるこ...
てられて何かせん。見ませ屋の裏にさせる箸のしげきを。皆姫...
もまさりて長く住みましけるなり。又故郷には男女數多くおは...
あらん。と泣く泣く引き止むれば、姫も常のけなげなるに似ず...
きならねば姫は、翁媼のまどろみし間に、ひそかに家をしのび...
みて、出雲は彼方よと急ぎたまふ。翁媼覚めて、姫の居まさぬ...
きけるに、姫は、とある椎の木の森の奥の山道を通り、大河を...
ば遂に江追付かず。
今其の椎の木の在りし邊りをかくしといふ。
翁は、媼に先んじて、辛くもあさりの浦迄來りしが力盡きて、...
を見、屍にすがりてまた死にき。
白鷺大明神とて十二月十五日に祭るとぞ。
(71コマp77)
姫は、出雲に歸りて長濱に寇を防ぎましき。現にはしに早脚...
出雲の薗の妙見これなりと傳ふるも、同じかるべし。なほ...
懐橘談に、一女神石見國橋の浦へ流れよらせ給ひしを、今...
る旨記せるは異傳なれど、関係はあるべし。
時は、開國進取主義を採れる出雲朝廷の英主が、栲衾新羅、...
り、国引ませる頃にて、此の後には姫彦族は新來者を歓迎せざ...
如し。思ふに土蜘蛛の鎮静と、内部の充實と、又大陸の變動に...
に依りて、姫彦族の政策おのずから變化せるものならん。
~
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''『那賀郡史』''
石見地方の地誌
那賀郡は浜田と江津の江ノ川下流域を併せた地域。
那賀郡共進会展覧会協賛会 編・出版/大正5年刊
国会図書館デジタルコレクション[[「那賀郡史」:http://dl.nd...
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(70コマp74)
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神代の昔、石見の国はし浦(当時地名ありしにあらず)に漂...
こに住む翁の目にとまれり。
板を木釘もて縫合せて造れる今日の朝鮮の小船に似たるも...
こぶねとはいいけん。
あやしみて、妻なる媼を呼びて共に見れば、年の頃六つ七つ...
わすが唯ひとり乗り給いて、中には柏の葉二つ三つ散れる外何...
何しに来たまいつると問うに、何事も語りたまわで、東の方を...
(70コマp75)
雄見尊の御裔にして、濱邊にて乗遊び居たまいけるが、海中に...
面やつれもせで、我が浦に著きまししぞ幸なるといへば、媼、...
んとにやあらんといへば、翁、美しくも云いけるかな。さらば...
姫に問えば、うなづきたまふ。翁媼躍りあがりて喜び、手を取...
こと限りなし。
翁媼の箸は使わるる限り改めざりしに、姫には、篠の心に...
らるべし。
あたりの者傳へ聞きて、参り拝み、遂にわれ等が神とあがめか...
姫か、しのをすのといひたまひければ、此のあたり、篠原...
ふなり。
又姫か我をあといひませるにより、此のあたりの者みなあ...
も知らる。
月日かさなりて、姫のねびたまふにつれ、益々美しく高貴に...
へおわして、げに鷄の群の鶴の如く、誰が目にも、凡庸の種な...
母慕わしの心起しまさんを恐れて、何事をも問わず、姫も亦い...
こゝに来ましゝわけなど、問いまつる人ありとも、口をつぐみ...
れつる如く、くらし玉ひけり。
唯、夜毎に起き出でて出雲の方を眺めますぞ怪しき。問いまつ...
(71コマp76)
しげきが我病なりと答へ給う。
かくて姫が十三になります極月の夜中、出雲の岬に方りて、...
媼にむかひ、彼の火のあがるは、故國に寇の來れる知らせなれ...
小くて此處に來り、年頃養い育てられつるを、今にはかに別る...
たまふ。翁媼とりすがりて、我等年老いて樂しく長らへつるこ...
てられて何かせん。見ませ屋の裏にさせる箸のしげきを。皆姫...
もまさりて長く住みましけるなり。又故郷には男女數多くおは...
あらん。と泣く泣く引き止むれば、姫も常のけなげなるに似ず...
きならねば姫は、翁媼のまどろみし間に、ひそかに家をしのび...
みて、出雲は彼方よと急ぎたまふ。翁媼覚めて、姫の居まさぬ...
きけるに、姫は、とある椎の木の森の奥の山道を通り、大河を...
ば遂に江追付かず。
今其の椎の木の在りし邊りをかくしといふ。
翁は、媼に先んじて、辛くもあさりの浦迄來りしが力盡きて、...
を見、屍にすがりてまた死にき。
白鷺大明神とて十二月十五日に祭るとぞ。
(71コマp77)
姫は、出雲に歸りて長濱に寇を防ぎましき。現にはしに早脚...
出雲の薗の妙見これなりと傳ふるも、同じかるべし。なほ...
懐橘談に、一女神石見國橋の浦へ流れよらせ給ひしを、今...
る旨記せるは異傳なれど、関係はあるべし。
時は、開國進取主義を採れる出雲朝廷の英主が、栲衾新羅、...
り、国引ませる頃にて、此の後には姫彦族は新來者を歓迎せざ...
如し。思ふに土蜘蛛の鎮静と、内部の充實と、又大陸の變動に...
に依りて、姫彦族の政策おのずから變化せるものならん。
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