『古事記』
『古事記』序?
『古事記』上巻p006~
(真福寺本p006a)
中卷大雀皇帝以下小治田大宮以前爲下卷幷錄三卷謹以獻上臣安萬
侶誠惶誠恐頓首頓首和銅五年正月廿八日正五位上勳五等太朝
臣安萬侶天地初發之時於高天原成神名天之御中主神訓
高
下天云阿麻
下效此次高御産巣日神次神産巣日神此三柱神者並獨
神成坐而隱身也次國稚如浮脂而久羅下那洲多陀用幣流
之時流字以上
十字以音如葦牙因萌騰之物而成神名宇摩志阿斯訶
備比古遲神此神名
以音次天之常立神訓常云登許
訓立云多知此二柱神亦並獨
神成坐而隱身也
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上件五柱神者別天神
次成神名國之常立神訓常立
亦如上次豐雲上野神此二柱神亦獨神成
坐而隱身也次成神名宇比地邇上
神次妹須比智邇去
神此二神
名以音次
角杙神次妹活杙神二
柱次意富斗能地神次妹大斗乃辨神此二
神名
亦以
音次淤母陀流神次妹阿夜上
訶志古泥神此二神名
皆以音次伊那岐神次
妹伊耶那美神此二神名亦
以音如上上件自国之常立神以下伊耶那美神
以前并稱神世七代上二柱獨神各云一代次雙
神十神各合二神云一代也於是天神諸命以詔伊
耶那岐命伊耶那美命二柱神修理固成是多陀用幣流之國
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(別天つ神五柱)
天地初發之時 於高天原成神名 天之御中主神 訓高下天云阿麻下效此
次高御産巣日神 次神産巣日神 此三柱神者 並獨神成坐而 隱身也 †
天地初めて発し時、高天原に成りませる神の名は、天之御中主神 高の下の天を訓みて阿麻と云う。下は此に效え。
- 注に従えば、高天原はタカアマハラ。日本書紀では「高天原」は本文には無く、一書の4に一度出るだけ(慶長4年刊版p4)。
大祓詞には出てくる。タカマノハラという読み方は比較的近年の読み方とされる。
- 安万呂の序では「天地」を「乾坤」としている。
- 神は成るもので、生まれるものではないという概念。成るは成立するのであるから、元のものから変化して成る。
例えば「王に成る」と云うのが近いように思う。
次に高御産巣日神。次に神産巣日神。此の三柱の神は、並に獨神と成り坐して、身を隱しましき。
- 安万呂の序では「三柱神」を「参神」としている。細かなことではあるが、上の「天地」の書変えも併せ、こういう書変えがあるのは、果たして安万呂が本文作成に関わったのかという疑問を生む理由になる。
次國稚如浮脂而 久羅下那洲多陀用幣流之時 流字以上十字以音
如葦牙因萌騰之物而成神名、宇摩志阿斯訶備比古遲神 此神名以音
次天之常立神 訓常云登許訓立云多知
此二柱神亦 並獨神成坐而 隱身也 †
次に、国稚く浮ける脂の如くして、久羅下那洲多陀用幣流時、流の字より以上の十字は音をもちいる
葦牙の如く萌え騰る物に因りて成ませる神の名は、宇摩志阿斯訶備比古遲神此の神の名は音をもちいる。
- 浮かぶ脂の如く、クラゲのように漂える、と云うのであるから水上に浮かんでいるイメージであろう。
が、国であるから、境界が定まらず不安定と云うような意味であろう。
葦牙が萌出るのは、水中からであろうから、葦牙により、漂うことが止まったと云うことであろう。
次に天之常立神 常を訓みて登許と云う。立を訓みて多知と云う
此の二柱の神も、並に独神と成り坐して、身を隠しましき。
上件五柱神者 別天神 †
上の件の五柱神は、別天神
- 天之御中主神・高御産巣日神・神産巣日神
宇摩志阿斯訶備比古遲神・天之常立神
- 記す必要もないのだが、どこぞでは、「別天神」を「別天津神」と記している。上の画像に「津」はない。念の為。
(神代七代)
次成神名 國之常立神 訓常立亦如上
次豐雲上野神
此二柱神亦 獨神成坐而 隱身也 †
次に成りませる神の名は国之常立神常立を訓むことも上の如し
- 天之常立神と国之常立神を、別途に分けているのは、国之常立神以降が地上の神という位置づけであろうか??
とすれば別天神と云うのは特別な天神という意図か??
次に豊雲野神。
- 上の字は「上声」としている。上声=四声の一つ。尻上がりに高く読む。
- にしては上の字が大きい。トヨクモ↑ノノカミで正しいのか疑問。表記通りに読めば「トヨクモカミノカミ」。
書記本文では豊斟渟尊
此の二柱神も独神と成りまして、身を隠しましき。
- ここ迄の神は皆、「獨神成坐而 隱身也」。
「独神」は通常、伴神が居ないと理解されているが、「隠身」が常に付随していることを考えると、後継者が居なかったという意味なのではないかとも思える。
つまり神の地位は引き継がれなかったと云うことを意味しているようにも思える。
又、独神・隠身とありながらも、日本書紀等に高御産巣日神・神産巣日神・天之常立神には名は違うが同じ神と見なして子孫があったように記される例があるのは疑問のあるところ。
次成神名 宇比地邇 上神
次妹須比智邇 去神 此二神名以音 †
次に成りませる神の名は、宇比地邇神。
次に妹須比智邇神 此の二はしらの神の名は音を以いる
次角杙神 次妹活杙神 二柱 †
次に角杙神、次に妹活杙神 二柱
次意富斗能地神 次妹大斗乃辨神 此二神名亦以音 †
次に意富斗能地神、次に妹大斗乃辨神 此の二はしらの神の名も亦音をもちいる
次淤母陀流神 次妹阿夜 上訶志古泥神 此二神名皆以音 †
次に淤母陀流神、次に妹阿夜訶志古泥神 此の二はしらの神の名は皆音をもちいる
次伊那岐神 次妹伊耶那美神 此二神名亦以音如上 †
次に、伊那岐神、次に妹伊耶那美神 此の二はしらの神の名も亦音をもちいること上の如し
- この部分では「伊那岐神」であって、通常用いられる「伊邪那岐」の「邪」は無い。
又通常用いられる「伊邪那美」についても「邪」ではなく「耶」もしくは[百阝]に見える。
- 「訂正古訓古事記」では「邪」を用い「ザ」と読んでいる。該当頁
上件自国之常立神以下 伊耶那美神以前 并稱神世七代 上二柱獨神 各云一代 次雙十神 各合二神云一代也 †
上の件の国之常立神自り以下、伊耶那美神より以前、并せて神世七代と称う。 上の二柱の獨神は、各一代と云う。次に雙べる十神は、各二神を合わせて一代と云う。
於是天神 諸命以 詔伊耶那岐命 伊耶那美命二柱神 修理固成是多陀用幣流之國 †
是に天つ神、諸命以ちて、伊耶那岐命、伊耶那美命の二柱神に詔らさく、是の多陀用幣流之國を修理め固成せ。
- ここでは、伊耶那岐命、伊耶那美命となっている。伊耶那岐と「耶」が付き、共に「神」から「命」に変わっている。
- 天神が那岐・那美の2神に詔したと云うわけだが、この「天神」が誰なのかは不明。五柱の別天神は既に身を隠している。
- イザナギ・イザナミについて、これまで汎用される「伊邪那岐」「伊邪那美」を用いていたが、上記のように「邪」は用いられて居らず「耶」が用いられている。
「邪」という悪字を誰が用い始めたかは不明だが(宣長か)、これを期に伊耶那岐(イヤナキ)・伊耶那美(イヤナミ)を用いるようにする。
(暫くは併用)
『古事記』上巻p007~