[[神名解題a]]

''「八束水臣津野命」''

近時(ヤツカミズオミズヌノミコト)と読まれている。

この神を主祭神に祀る神社
-長浜神社
島根県出雲市西園町上長浜4258
--長浜神社では、「八束水臣津野命」と「淤美豆奴命」を別神格として祭り、「淤美豆奴命」の妻神が「布帝耳命」としている。
「八束水臣津野命」の子が「淤美豆奴命」とも云われる。
(古事記学者からの度重なる疑問に辟易したのか、現在では国引きの神・妙見の神と分けて祀るとしている)
-諏訪神社
島根県出雲市別所町72番地
-&ruby(トビ){富};神社
島根県簸川郡斐川町富村596番地
--国引きを終えた後この地に鎮座したという。

-国村神社
島根県出雲市多伎町久村1289
--祭神名「八束水臣津努命」。元社地は氏ケ迫。祭神に変遷があり縁起不明。

-金持神社[[HP:http://kanemochi-jinja.net/]]
鳥取県日野郡日野町金持1490

-&ruby(キタコズ){北居都};神社
岡山県岡山市東平島1468
--北居都神社では、兄弟神の「筑杵等手留比古命」と共に国造りをしたとされる。
「筑杵等手留比古命」は「衝鉾等番留比古命」ともされるが「衝鉾等番留比古命」は秋鹿郡多太郷の多太神社に祭られ「須佐能乎命」の子とされるので不可思議。

「八束」「八束水」という名の地名
-旧島根県八束郡
-島根県松江市八束町(古い地名ではない)
-鳥取県鳥取市気高町八束水(ヤツカミ)
-岡山県真庭市八束村

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出雲国風土記で国引き神話の主人公。
古事記にある速須佐之男命の4世の孫「淤美豆奴神」と同一神と見られている。天之冬衣神の父、大国主神の祖父。
島根県邑智郡邑南町の龍岩神社伝説に八束水臣津野命が出ており、石見という地名縁起になっている。
--又改めるが、龍岩と切り分けられた角石というのは、須佐のホルンフェルスであろうか。

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この神格、出雲では重要な神格なのだが、良く解らない事が多い。
生誕地が蒜山北方とも伝えられ、杖を突きながら各地を巡り、国を縫いなしたとも伝えられる。
「束」は計量の単位だが、「つか」であって、「そく」でも「たば」でもないから容量の単位ではない。
長さであれば手の握り幅、即ち握り拳の幅にあたる。(10cm弱)
八束では80cm前後。この位の長さであれば、命が常に手にしていた杖か刀の長さかとも思う。
八束水というのは意味が解らない。
八束水が気高町の地名にあるヤツカミであるならば八掴みで、出雲9郡のうち、他の8郡を掴んだと云う意味かとも考えられる。
「オミズ」が「大水」という説(伊勢での創作?)は頑じ難い。臣津=(おみ・つ)であって(お・みつ)ではない。
大水の神というのであれば、国土を流すことはあっても、引き寄せることはない。
「臣」は目の瞳を表し、「神に仕えるもの」というのが字義である。
「津」は水辺を表す。

上記を勘案すると「八束の杖をもち、水辺で神に仕えるもの」というのが神名の意味のように思われる。
読みに「ヌ」を入れる事には少々疑問がある。この件再考。
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[[『出雲国風土記』嶋根郡]]には
・白井本「所以号嶋根郡国引唑&ruby(ヤツカミマヲシツノミコト){八束水臣津野命};之詔而頂給名故島根」の部分でルビがあり、(ヤツカミマヲシツノミコト)とある。
・岸崎本(第2帖p3)では同じく嶋根郡の部分で、八束水臣津野命に(ヤツカミノヲシツノミコト)とルビがある。
・上田秋成書入本(15コマ)では、八束水臣津野命に(ヤツカミノカンツノミコト)と黒字のルビがあり、赤字で(ヤツカミノオンツヌノミコト)と読むように訂正してある。

これらから勘案すると、
「八束水臣津野命」は(やつかみのをしつのみこと)と読むのが正しいように思われる。→「&ruby(ヤツカミ){八束水};の&ruby(ヲシツ){臣津};の命」。

昨今(ヤツカミズオミズヌノミコト)と読まれるようになったのは、おそらく古事記の「淤美豆奴神(オミズヌノカミ)」になぞらえるための作為と思われる。
「八束水」は(ヤツカミ)であって、(ヤツカミズ)ではない。
「八束水臣津野命」を(ヤツカミズオミズヌノミコト)と読むのは誤った読み方であると云わざるを得ない。
---出雲地方固有神格の神名を古事記になぞらえて読み替えるなど本末転倒と云わざるを得ない。

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気高町八束水に「姫路神社」がある。(鳥取市気高町八束水1227)
ここに「&ruby(ヘチオネヒメ){閇知泥姫};」がこの地で八束水臣津野命を生んだ」という古い言い伝えがあるらしい。
--古事記では「淤美豆奴神」の母神が「&ruby(アメノツドヘチネノカミ){天之都度閇知泥神};」である。父神は「&ruby(フカフチノミズヤレハナノカミ){深淵之水夜礼花神};」。
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『出雲国風土記』出雲郡・神門郡に見える「意美豆努命」に関しては、又改める。

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