犬族とのつきあい方
生まれてこの方、ほとんどいつも家には犬がいた。
多いときには、4頭もの成犬がいたこともある。
そこで、犬族とのつきあい方を伝授しよう。

犬の分類 犬は和犬と洋犬に大別できる。
やはり、日本の風土に合っているのは和犬である。
柴犬が最もポピューラーだが、実際には、純粋な柴犬というのはほとんど稀少になっている。
他に、紀州犬・甲斐犬・四国犬・アイヌ犬等が、古来からの和犬で、
秋田犬や土佐犬等は、近年交配によって作り出され固定化された犬種である。
いずれも、近年純血種は稀少になってきている。
犬の性質 犬族は元々、狼から始まっているようだが、今は日本では絶滅した。
犬族が集団秩序を重んじるのは、狼時代からの伝統であろう。
犬と人 犬族が人とつきあい始めたのは相当古い時代からのことである。
狩猟の友として、お互いに助け合って来た。
近年愛玩犬として、洋犬が盛んに飼われているが、犬族の尊厳を傷つけているのではないかと危惧している。
犬を飼う 犬を飼うというが、犬と人との古来からのつきあい方を考えると、いわゆるペットとして扱うことには疑問がある。
犬とつきあうには、それなりの環境作りが必要である。
室内で飼ったり、年中鎖につなぎっぱなしにするようなら、つきあうべきではない。
犬は人のおもちゃではないのである。
和犬 和犬は芸を覚えないとよく言われる。和犬はプライドが高いのである。
意味のない芸、お回りやお手など、馬鹿馬鹿しくてやっていられないのである。
それを、可愛くないというのは、人の身勝手である。
和犬は主人を選ぶのである。
和犬が自分自身の判断で、尊敬できる主人を得たとき、最高の人犬関係を形成できるが、
不幸にも尊敬できない主人である場合には、まるで言うことを聞かない態度をとり続ける。
和犬の成犬が、子どもに対して冷淡であるのは、その人格を認めないからである。

さて、具体的な話に移ろう。
これまで家にいた犬は、すべて猟犬である。セッター・ポインター・ビーグル、柴・紀州などであるが、洋犬と和犬は
明らかにその違いを示す。洋犬は、自己判断を最小にし、良くいうことを聞く。和犬は、自己判断が多く、日頃あまり
いうことを聞かないが、いざというときには、洋犬以上の誠実さを現す。
中でも、紀州犬のリリーは、最高であった。以下、リリーを例にして、犬族とのつきあい方を紹介しよう。
 
リリーは猟系紀州の純血種で、留め犬の血統を引き継いでいた。
紀州犬は、猟系と品評会系という二つの流れがあり、元々は一体のものであったが、白色紀州が珍重されるようになって
猟に用いない品評会専用の純白紀州が作られたことから、これら二つの流れが生まれた。
紀州犬は猪猟や、鹿猟で用いられる事が多く、白色の他、茶色、黒色、等もいる。
猟系紀州犬では、完全純白のものはなく、リリーも背中や腹部にやや茶色の毛並みを含んでおり、
通称「汚れ白」と呼ぶ毛並みである。これが、逆に猟系であることの証でもある。
紀州犬で白色を珍重するのは、山中に入ったとき、その動きが見分けやすい為であり、他意はない。
 近年猪猟では複数の犬をつれ、猟師も複数で、山中で、複数の犬に猪を追い立てさせ、待ち伏せして狩猟する事が多くなっている。
これは鹿猟のやり方を取り入れたものである。
犬一頭、人一人の場合には、犬が山中で猪を見つけると、人が到着するまで、その猪をその場所に釘付けにしておく必要がある。
この様な事のできる犬を留め犬と言い、熊猟の場合もこの方法による。
 これは犬の猟芸の中でも芸術的なもので、見事としか言いようが無く、この芸のできる犬は次第に稀少になってきている。

《幼犬時代》

リリーは猟系紀州の両親の元に生まれた。兄弟三頭の中でただ一頭の雌犬である。
生後一週間で私の親父が引き取り、二週間目に我が家に来た。
この様に、生後間もない時に引き取るのは、時期を遅らせると、紀州犬は帰巣本能によって、生まれた場所に勝手に戻ってしまうためである。
両手に載る程度の大きさの時にやってきて、子育ては大変であった。
来た日の夜は、一晩中、心細いのか「キューン、キューン」と泣き続けた。仕方ないので、玄関内に段ボールと毛布を用意して、
一晩つきあってやった。
翌日からは、もう夜泣きはしなくなり、庭先で眠るようになった。
最初はミルクに少しフードを入れたものを食べさせ、次第にフードを増やしていき、半月ほどで離乳させた。
ミルクや卵は、犬の好物であるが、日頃はあまり与えてはいけない。
これは、病気になったときの療養食にしておかないといけないからである。
日頃、ミルクや生卵を与えていると、慣れてしまい、病気の時に食べさせるものに困るからである。

洋犬は、所かまわず糞尿をするが、和犬は自分でウンチの場所を決めて、そこにしかしない。
ウンチの場所は人が決めることもできる。それは、ウンチをしたとき、それを決まった場所に持っていき、次のウンチをしたら
前のウンチを処分する。これを数度繰り返せば、和犬はウンチの場所を心得て、他にはしなくなる。
最初にしなければならないしつけである。

食事は幼犬の時は朝夕2回、残さない程度を与える。
フード中心にする人がいるが、これは間違っている。
フードはあくまで副食である。
犬は雑食なので、人が食べるものは何でもよい。ただし。タマネギやネギ・ニンニクは与えてはいけない。
特にタマネギは犬の赤血球を破壊するので、絶対にいけない。
すき焼きなどの残り物で、タマネギが入っている場合でも、与えてはいけない。
又、鶏の骨も与えてはいけない。鶏の骨は、裂けて割れるので、喉に刺さることがあるからである。
鶏の骨を与えるときは、金鎚で打ち砕いてから与えなければならない。(鯛の骨も同様)
この2点に気をつければ、後は何を与えてもよい。
幼犬の時は、できれば生食は避けた方がよい。火を通したものを与えるようにする。
というのも、拾い食いをした場合、病気になることがあるからである。火を通したものを与えるようにしておけば、
拾い食いで生食はしなくなる。
成犬になれば、自分で判断するので、変なものは食べなくなる。

幼犬時代には、姿勢を整えてやることも必要である。
座り姿・立ち姿・寝姿など、こまめに気をつけ、姿勢が悪いときは、直してやる。
成犬で、座ったときに腰が曲がったりして、姿の悪い犬がいるが、幼犬時代に、整えておけば、生涯姿勢が良くなる。
姿勢の良い犬は、健康で病気にもかかりにくい。
 
概ね、犬の1歳は人の6歳に相当する。2歳から3歳までにきちんとしつけをすれば、後は楽である。
逆に、この頃、虐待を受けると、生涯忘れない。
リリーの場合、1歳半の頃、近所のおばさんが通りすがりにリリーを傘の先で追い立てたことがあった。
以来、このおばさんが近づくと、成犬になっても猛烈に吼えかかるようになり、ついにはこのおばさんは通り道を変え近寄らなくなった。

良く犬の頭をなでようとする人がいる。紀州犬にこれをしてはいけない。紀州犬は、見知らぬ人が頭を上からなでようとすると、
たたかれるのではないかと警戒して、噛みつく事がある。
良く、子どもが犬にかまれるのは、この様に頭をなでようとしたときに起きる。
犬族に初対面で親愛の情を示すときは、上からなでるのではなく、しゃがんで、手のひらを舐めるようにし向け、
喉を下からさすってやる方が良い。
これなら、犬も安心してくれる。しばらくそうしていれば、その人の臭いを覚え、お友達になれるのである。

《犬の世話》

犬の世話は、朝、濡れタオルで顔を拭いてやることから始まる。
顔を拭き、目やにを取り、耳の内側を拭いてやる。首輪をゆるめ、ダニがいれば取ってやる。
それからブラッシングである。これはどんなときも欠かしてはいけない。
時には、爪を切ったり、歯を磨いたりしてやる必要もある。
歯磨きは、水で濡らした歯ブラシで、歯や歯茎を軽く磨いてやるのである。歯磨き粉は使わない。
このスキンシップで、犬の健康チェックをするのである。異常脱毛や鼻の乾き、怪我があれば、処置をする。
おおよそ、人の薬は、犬にも使える。怪我等は、マキロンや軟膏で十分である。薬の臭いを嫌うときは、アロエを塗る。
鼻が乾くのは発熱しているのであり、風邪をひいていることが多いので、やや暖かい牛乳を与える。
 
《犬の散歩》

朝夕犬の散歩は当然のことであるが、逆に、これで十分だと勘違いしている人がいる。
犬の散歩といっても、これは人の散歩に犬をつきあわせているだけで、犬は運動不足になる。
運動不足の犬は、ストレスがたまり、気性が荒くなる。
できれば毎週一度、少なくとも月一度は、山につれていき、放してやり、思いっきり遊ばせてやる必要がある。

リリーの場合、散歩にはあまり連れていかない。というのも、日頃はレンガ塀で囲まれた敷地内で放し飼いにしており、
適度に運動しているからである。
代わりに、毎週山に連れていく。喜んで、勝手に走り回っている。
山遊びを終え、家に帰ったら、お風呂に入れる。ぬるめの温度でシャワーを使う。石鹸で洗って、犬のリンスをしておく。
お風呂は大体好きではない様である。顔にシャワーを浴びせられるのが嫌いなのである。
シャワーの時は耳に水が入らないように気をつけないといけない。
風呂上がりには、体毛が良く乾くまで台所の板間に連れておく。夕食を一緒に食べる。
といっても、私の食事の半分はリリーに取られてしまう。


近所で犬を飼っている家があり、そこの娘が、犬をお風呂に入れるのを聞いて、驚いていた。
そこの犬は、一度もお風呂に入れてもらったことがないらしく、犬臭くて、汚れている。
散歩もろくに連れて行っていないようで、悲惨である。
そういう家は、犬を飼ってはいけない。
犬の皮膚には汗腺がないので、皮膚病に気をつけなくてはいけない。ブラッシングやお風呂は、この為に必要なのである。
和犬の場合、気候風土に合っており、自分である程度の毛繕いをするのでさほど神経質になることはないが、
洋犬の場合は、本来の風土と違う日本で暮らすので、絶対に欠かしてはならない。
 
《犬の暮らし》
今、都市部に暮らす犬達は、よほど暮らしにくいと思う。
「犬は繋いで飼いましょう」キャンペーンで、年がら年中つながれっぱなしになり。食事はフード中心。
犬族同士のつきあいもままならない。そろそろ、人とつきあうのも嫌になってきているのではないかと思う。

かつて、田舎に暮らす犬は、放し飼いであった。
自由気ままで、山遊びや、川遊びを自由に楽しむことができた。
見知らぬものが里に入り込むと、隣近所の犬と共同して警戒にあたっていた。

私が幼い頃田舎暮らしをしていた頃、家の犬も、よその犬も、同じ里の犬として扱われていた。
この頃いたのは、アカ・ピー・チビである。
アカは柴犬、ピーはポインター、チビはビーグルである。
いずれも雄犬で年齢順に上下関係があったようである。

日中何処にいるのか、勝手に出歩いているが、食事時にはきちんと戻ってくる。
家の犬に混じって、よその犬も食べにきていたから、家の犬もよその家で、平気でおよばれを楽しんでいたのだろう。

私が友達と連れ立って山遊びや川遊びをするときには、犬達もぞろぞろと連れだって付いてくる。
子どもの山歩きなので、別に用事や予定があるわけでもない。野いちごを摘んだり、山柿をもいだり、小川で蟹を取ったり、
好き勝手を楽しむ。犬達も勝手気ままで、つかず離れずでつきあってくれる。
田舎の山ではマムシが出ることがある。最年長のアカは蛇取りの名人(犬)で、蛇を見つけると、さっと頭をくわえて、
左右に振り回した後、石や地面に叩きつける。それ故、子供だけの山歩きでもアカが付いてきていれば安心であった。

カラスが山に戻る頃には、私たちも家に戻る。
犬達は夕食が終わると、一眠りし、深夜に又集まるようである。狼時代の習性かもしれない。
時折、「ワォー」等と遠吠えをしている。
そんなとき、祖母は私に「あれは夜番をして、変わりないことを知らしているのだ」
と話してくれた。「何か変なことがある時は『ワンワンワン』と激しく吼え立てるから心配ないのだ」と。

朝にはいつの間にか戻っている。呼ぶと大抵床下から這い出てくる。
そうして、さばりついて来て、私の顔を舐めるにくるのが朝の挨拶である。
幼い頃は、朝、三頭に一度にさばりつかれると良く押し倒されてしまい、顔中を舐められることがよくあった。

昨今のプレハブ住宅では、布基礎で、床下に入る場所がない。それで犬小屋がいる。
犬小屋は木造でなければいけない。塗装はしない方がよい。又、乾燥した場所で、風通しの良い場所におかなくてはいけない。
ただし、入り口から風が吹き込むようではだめである。
夏はゴザを、冬は毛布をひいてやり、時折日に当てて干してやる。
犬は自分の臭いのするゴザや毛布であれば安心して眠れるのである。

リリーの場合、我が家は四方がレンガ塀で囲まれているので日頃は放し飼いである。
古い木造建築なので、ちゃんと床下がある。犬小屋も用意したが、冬のよほど寒いとき以外は小屋には入らない。
夏は築山の蘭の草むらで眠り、少し寒くなると床下に入る。
一度、床下掃除で見た時、リリーは床下を浅く掘り、そこにどこからかゴザを持ち込んで寝床にしていることが解った。
私が眠っている部屋の真下である。

《犬の水泳》

犬は子犬の時に、水泳を教えておかないと水をおそれるようになる。
2歳ぐらいになったら、夏に流れの緩い川に連れていく。お腹の方から差し上げて抱きかかえて水に入り、
犬の足が立たないくらいの深さの所に連れていき、そのまま水につけ手を離す。驚いて死にものぐるいで泳ぎ始める。
少々可愛そうだが、一度これをして、泳げることを体験したら、後は大丈夫である。
猟犬の場合、鴨猟等では、撃ち落とした鴨を犬に取ってきてもらわなければならない。
泳ぎを覚えた犬は、冬の寒さでも平気で水に入るようになる。

 誤解の無いように書き加えておくが、私自身は狩猟はしない。
親父や祖父は狩猟をしていたし、猟犬の訓練方法も見知っているから書き加えているだけである。
 狩猟はしないが、犬のしつけや訓練には、狩猟の為の訓練方法が有効であるので,リリーもこの方法でしつけてきたのである。

毎年夏には、一度は海水浴に連れていく。大体嫌がるが、手綱をつけたまま海に入れ、海水をかける。
こうしておくと皮膚病にかかりにくくなる。もちろん帰ってからしっかりシャワーをかけて、塩分を流しておかなければならない。
盆前最後の海水浴に連れていくのが習慣である。4時過ぎなら日差しも弱まっている。
直に冬毛に生え替わるので、毛並みの痛みも最小ですむ。

《吠える犬》

犬は、見知らぬものが来ると吼えかかる。
だから番犬になる。
吼えることで、見知らぬものへの警告と、家人への連絡をしているのである。
 これはきちんとしつけないと、誰彼なく、とめどなく吠える犬になる。
しつけ方は次のように行う。
@ 先ず「ヨシ」といって、吼えることをほめてやる。
A 次に「ヤメ」といって、吼えることを止めさせる。

この「ヤメ」を言ってもまだ吼えるときは、「ヤメ」をもう一度言いながら犬の口をつかんでしまう。
それから、口をつかんだまま「ヤメ」をもう一度言い、理解させる。
それから。口を放す。

口を放して、更に吼える時は、もう一度「ヤメ」を言いながら、再び口を右手でつかむ。今度は少し強くつかんでから、
左手で、自分の右手をパシッとたたく。犬は、目の前で手をたたく音と、動作が行われるので、驚いて、確実に理解する。

これを数度行えば、次からは、「ヤメ」を言うときに、手を握りしめる動作を見せるだけで吼えるのを止めるようになる。

このしつけで大切なのは、最初の一言の「ヨシ」である。
見知らぬものが来て、吼えることは、決して悪いことではない。吠えない犬は番犬にならない。
それ故、吼えること自体は、ほめてやらなければならない。
しかし、家人が出てきて「ヤメ」をいったら、もう吼えてはいけない。この違いを理解させなければならないのである。

賢い犬なら、外来者に対して、吼え加減をつけるようになる。
リリーの場合、初対面者には、門の所まで素早く走っていき、かなり激しく吼える。
しかし、いつも「ヨシ」を言われる人に対しては、次第に吼え加減を穏やかにしてくる。
頻繁に来る人の場合には、軽く「ワン」と一言吼えて終わりである。つまり、これは相手に対する警告ではなく、
家人への連絡だけの為の吠え方であり、私が家から出てくるのを見ると、さっさとどこかに行ってしまうのである。
 普通は門の所まで行って吠えるが、この様な頻繁に来る人の場合は、臭いで解るのか、門まで行かず、
裏庭の方で「ワン」といって終わりにしてしまうことも多い。
 こちらも、吠え加減の違いで、誰が来たかおおよそ見当がつくようになる。

 リリーは過去2度ほど、外来者に噛みついたことがある。
家人が留守にしていたとき、門を開け中に勝手に入ってきた人、それも初めての人に対してである。

 噛まれた人は、後で文句を言ってきた。その時リリーは、激しく吠えかかった。
門越しで話をしたが、この間リリーに「ヤメ」は言わない。
事情を聞くと、リリーが激しく吠えたにもかかわらず勝手に入ってきたことが解った。
逆に説教をして引き取ってもらった。
治療費は払ったが、リリーを叱ったりはしない。リリーは、きちんと番犬の務めを果たしているのであるからである。
当然リリーは、その人が帰るまで吠え続けた。
 門には「猛犬がいますので、家人が出てくるまで勝手に入らないで下さい」と板書きしてある。
それでも、この様に入ってくる人がいる。

紀州犬は中型犬で、リリーの場合雌なのでやや小ぶりである。
散歩などしてると、白色なもので「可愛いねー」等と良く言われる。
そうして、なでようと手を出す人もいる。とたんに、それまで知らん顔をしていたリリーが、「ウー、ワン」と、低い脅し声をあげる。
見知らぬ人には、絶対に身体を触らせないのである。

和犬で、紀州や甲斐犬、四国犬等の中型犬を、猛犬でないと思うと大間違いである。特に、猟系四国犬は要注意である。
実はリリーの場合、今まで、秋田、シェパード、ボクサー等の大型犬と喧嘩をしても、負けたことは無い。

子供が大型犬の散歩をさせている時など、途中で出会いそうなときは、こちらが冷や冷やする。
リリーから喧嘩を仕掛けた事はこれまで一度もない。しかし、かかられてきた場合、ほぼ一瞬で勝負はついている。
リリーはあっという間に、相手の喉元に噛みついている。どんな大型犬も喉元を噛みつかれるとどうにもならない。
(リリーの父犬は牛の喉元に噛みつき倒したことがある。後が大変だったらしい。内輪では有名な話である)

そうしてリリーはこちらの顔色を窺っている。
こうなると離すのは一苦労である。「ヤメ」といっても、相手の犬が刃向かおうとする限り、離さないからである。

リリーが、こちらの顔色を窺うのは猟犬としての訓練による。「カメ」といえば更に深く噛み込み止めを刺すのである。
これは、ウサギや狐等の小型の四つ足猟の訓練として、勝手に殺したり食いちぎったりしないように一応訓練してあるのである。
ちなみに、この訓練は、かなりハードである。噛み加減を教える際には、こちらも何度か血だらけになる。
ゴム手袋をし、軍手を二重にした上でタオルを巻き付け、私の手に噛みつかせる。
成犬になるまで成長度によって、何度か行う。
そんな訓練である。あまりおすすめできない。