[[『出雲国風土記』]]

''『出雲国風土記』記載の草木鳥獣魚介''

各郡毎に記すと重複し煩雑となるのでここに纏める。

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-草木
--多年木(アワキ)…モチの木・橿木(カシノキ)・青木の総称。
--宇竹(オオタケ)…ハチクの古名。半竹・淡竹。

--薺(ナズナ)…単漢字ではナズナの事だが、次のようにオハギと読む。
--薺頭蒿(オハギ)…嫁菜(ヨメナ)の古名。(茸カとあるのは不要)
--都波(ツワ)…ツワブキ
--師太(シダ)…ウラジロの別名
--比佐木(ヒサギ)…久木・楸。赤芽柏(アカメガシワ)の古名。校注出雲国風土記では(キササゲ)としているがキササゲは「木大角豆」。
--麦門冬(バクモントウ)…蛇ノ髭(ジャノヒゲ)・藪蘭(ヤブラン)。古名は山菅(ヤマスゲ)。根を煎じて生薬とする。麦門冬湯として知られ咳に効く。
--獨活(ドッカツ)…ウドの生薬名。湿布薬になる。
--石斛(セキコク)…少彦薬根(スクナヒコナノクスネ)・岩薬(イワグスリ)という古名がある。健胃薬・強壮薬。
--前胡(ゼンコ)…野芹(ノゼリ)。解熱・去痰・鎮咳。
--高良姜(コウラキョウ)…花茗荷(ハナミョウガ)の事。健胃・整腸・解熱薬。
--連翹(レンギョウ)…古名は(鼬草イタチグサ)。花の付く枝がイタチのように立ち姿になることからの呼び名という。解熱・消炎・腫物に効果。
但し本来の連翹は(巴草トモエソウ:大連翹)もしくは(弟切草オトギリソウ:小連翹)。
--黃精(オオエミ)…鳴子百合(ナルコユリ)の古名。滋養・強壮薬
--百部根(ビャクブコン)…古名はホドズラ。その根を漢方薬とした。殺菌。
--貫衆(カンジュウ)…銭巻(ゼンマイ)の生薬名。虫下し。
--白朮(ビャクジュツ)…朮(オケラ)の生薬名。健胃・健脾・強壮。
--薯蕷(ショヨ)…山之芋(ヤマノイモ)の別名。強壮・疲労回復。

--苦参(クジン)…眩草(クララグサ)の根の生薬名。クラクラするほど苦い事からクララと呼ばれる。健胃・消炎・皮膚病など。
--細辛(サイシン)…薄葉細辛(ウスバサイシン)・韮根草(ミラノネグサ)。鎮咳・鎮痛薬。
--商陸木(ショウリクボク)…古名で(イオスキ)とも読む。キク科ヤマボクチ属の菊葉山火口(キクバヤマボクチ。通称山牛蒡ヤマゴボウ)。根が利尿剤となる。火口は葉の裏に毛があり火種として使われたことによる名称。
ヤマゴボウ科の山牛蒡ではない。
校注出雲国風土記では、「商陸・高木」と分けて、高木に(サワソラシ・カサモチ)を充てている。カサモチは「和藁本」(ワコウボン)と記され「藁本」とも記すようだが、「高木」は不明。
--玄参(ゲンジン)…胡麻葉草(ゴマノハグサ)の根を乾燥したもの。解熱・解毒。
--五味子(ゴミシ)…朝鮮五味子(チョウセンゴミシ)。果実を鎮咳、強壮薬とする。
校注出雲国風土記では(サネカズラ)としているが五味子の代用品で別種。
--黃々(オウゴン)…正しくは黄苓、黄金花(コガネバナ)コガネヤナギとも云う。消炎・解熱・腹痛薬。校注出雲国風土記では(ヒヒラギ)と読んでいるが不明。ヒヒラギは「柊」。
--葛根(カッコン)…葛の根(クズノネ)。葛根湯の主成分として有名。滋養・発汗・風邪
--牡丹(ボタン)…古名は深見草(フカミグサ)。根の皮を牡丹皮(ボタンピ)と呼び生薬とする。消炎・鎮痛・止血・通経・通便。
--藍(アイ)・漆(ウルシ)…染料の藍と漆器に用いる漆。
校注出雲国風土記では「藍漆」を分けずに(ヤマアイ)と読んで、タデ科のアイの事としているが、「藍漆」では(ヤマアサ)即ち反魂草(ハンゴンソウ)の事を指し、違和感がある。
--檎(ゴ)…「檎」は林檎(リンゴ)の事。林梧とも書く。又、梧桐は青桐を云う。後に赤桐、白桐が続くので、青桐を指しているのかも知れない。
「校注出雲国風土記では「杉」とし「字或作椙」としている。

--海榴(ツバキ)…海柘榴(ウミザクロ)、椿の異名。椿の実が柘榴の実に似ている事によると言う。海を付けたのは海辺の山中に多くある椿を指したのであろうと思われる。
--楊梅(ヨウバイ)…山桃(ヤマモモ)の事
--栢(カエ)…榧(カヤ)の古名。
--蘗(ハク)…黄檗(オウバク)、黄膚(キハダ)の事。ミカン科の常緑高木で、樹皮を剥くと黄色い。この黄色い部分が生薬となる。抗菌・健胃整腸薬。又染料にも用いる。禅宗の黄檗山はこれに由来する。
--槻(ツキ)…欅(ケヤキ)の古名。
--萆解(ヒカイ)…山芋の一種。和名は鬼野老(オニドコロ)。根茎を乾燥させた物を煎じて、風邪・鎮痛に用いる。
--狼毒(ロウドク)…ジンチョウゲ科の多年草。殺菌・鎮痛に用いる。
--杜仲(トチュウ)…樹皮を生薬として利尿・肝腎強壮。葉を杜仲茶として用いる。
--芍薬(シャクヤク)…根を鎮痛・抗菌・止血に用いる。
--柴胡(サイコ)…ミシマサイコの根を柴胡と呼び生薬として用いる。解熱・鎮痛。
--須我毛(スガモ)…アマモ科の海藻
--茅(カヤ)
--路…蕗(フキ)
--芋菜(イエツイモ)…里芋の古名

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-鳥獣
--鶬…真鶴(マナヅル)。校注出雲国風土記では(ヒバリ)と読んでいる。
「離黄」は説文に倉庚(ソウコウ)の別名とある。この倉庚は鶯(ウグイス)を指す。
--鵄(トビ)・鴞(フクロウ)…校注出雲国風土記では、「鴟鴞」と記し(ズク)と読み、ミミズクの事であるとしている。
が、「鴟鴞(シキョウ)」はフクロウであり、ミミズクは「鴟鵂(シキュウ)」である。
--作横致功鳥…不明な注記で、色々解釈されている。「鵄」を「鴟」としているものがあり、「鴟」の場合に、「横致」は偏が致→至ということなのかも知れない。標注古風土記p83によれば、千家俊信は「作横切鳥」と変えたらしい。
「功鳥」はイサオ鳥=勇ましい鳥で猛禽類であることを指している。これを「悪鳥」「凶鳥」と記しているものもある。悪鳥・狂鳥はひどいと思うが・・・。
--鴛鴦(オシ)…オシドリ。鴛はオシドリの雄、鴦はオシドリの雌
--鷠(ウ)…海鵜
--鳬(ケリ)…鳬は鳧の異体字。

--飛鼯(ムササビ)…平安中期以前にはムササビとモモンガを共にムササビと呼び区別していなかったようである。
--櫑(ライ)…酒樽。「鼺」(ルイ)がムササビであるから、誤記もしくは略記であろう。
--蝸・猧…読みは共に(カ)。蝸は(カタツムリ)。猧は狆(チン)。出雲国風土記抄第1帖p39では『字或作[獣偏に畾]作蝠』とあるが解説はない。「蝠」は(マムシ)。
この件不明。
--獼猴(ビコウ)…大猿
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-魚介
--入鹿(イルカ)…イルカは古来貴重な食糧として食用されてきた。
--鯔(ボラ)…校注出雲国風土記では(ナヨシ)と読んでいる、(ナヨシ)は(ボラ)の若魚を指す。
--鎭仁(チヌ)…黒鯛(クロダイ)のこと。
--鰝鰕(エビ)…鰝(コウ)は大きいという意味を表す。ここでいう(エビ)は「大エビ」即ち「伊勢海老」のことを指す。

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---この辺りの読みの解説は[[『和名類聚抄』]]を参考にしている場合が多いようである。出雲国風土記から200年後に作られたものであり、書写の過程で誤記改竄も多々あるようであり、気を付けないと本末転倒となる。
即ち、出雲国風土記から和名類聚抄に収録されたものを、和名類聚抄に斯くあるから、出雲国風土記の記述は斯くの如しと云うような倒錯。


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