《人間の原型と現代の文化》 A.ゲーレン
大論争で、どなたか、西欧の神話に詳しくないと語られていた。
この著作が、適当かどうかやや疑問もあるが、現代における一つの、知の水準として
この書を紹介しておく事にする。
神話の成立背景、儀式の成立背景、等に関して、かなりの水準で考察し詳述してある。
基本的には文化人類学の立場からの論述である。

ただ、私の読むところでは、著者はドイツ人であり、ゲルマン民族の神話、それは、
ゲーテがファウストで記したような、黒い森の神話であるのだが、当然の事ながら、そこに拠点を置いており、
この事は例えば、ポリネシア地域に関する記述においても、その視座からは離れてはいないのである。

これはどういうことかと言えば、日本の神話には、即時的には当てはまらないと言うことである。
つまり、日本の神々のありようは、ゲルマンやギリシャあるいはオリエントの神々とは多分に異質であり、
森に潜む妖精達や、天上界に暮らす神々や、時の彼方に暮らす神々とは異なっており、
極々身近に暮らす神々であるということである。
それ故、著者の視座である、人の社会から神話世界を解釈するという点において、根本的に異なってしまうのである。

しかしながら、この書を読むことによって、現代においては、日本の神話自体が西欧の神話解釈の影響を
多分に受けてきている事を、逆に明らかにしてくれるとも思われるのである。
その意味での紹介だと考えておいて頂きたい。


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