《美的次元》 H.マルクーゼ |
H.マルクーゼの遺作であり、芸術理論に関する著作である。 ヘーゲルまでの哲学史において、芸術はその価値をカタルシス効果におかれていた。 ロシア革命前後、芸術はその政治的価値を見いだされるようになった。 それは社会主義リアリズムと呼ばれ、スターリン時代を通じて教条化され、 政治の下部構造の中に位置づけられた。 ヒトラーが出現する前後、表現主義芸術運動が生まれた。 様式の破壊と再構築を標榜したが、ナチスドイツ出現を許してしまった。 芸術をめぐる激しい議論はこの様な時代状況の中で行われた。 今、あちらこちらに自称「芸術家」が多数いる。 バルザックの例を引くまでもなく、作家と作品は別の存在である。 作品がひとたび作家の手を離れてからは、作品は独自の歩みを行うのである。 ここに、芸術論成立の困難さがあるが、そのことは、思想としての芸術理論とは又別の問題である。 芸術理論が芸術理論として成立するためには、様式の確立が重要である。 この意味で、社会主義リアリズムは芸術理論として成立し得たのである。 ところが様式の確立は、その確立後においては他の様式を排除する。 ここに又、芸術理論の弁証法的止揚を停止させるという問題が生まれるのである。 芸術家、作家気取りの芸術至上主義者とは無縁の世界がここにある。 ブロッホとマルクーゼの芸術論は近く尚遠い。 |