犬の猟芸
犬を山に連れていくと、犬種によって特有の猟芸を見せる。

○ ポインター
ポインターは鳥猟に使う。雉・山鳥・山鳩などである。
鳥は危険が迫ると、草むらに隠れてじっと息を潜ませる。
ポインターは臭いを追ってゆく。
獲物のいる場所を嗅ぎつけると、その直前で、右足を少し上げ、静止する。
この動作を「ポイント」といい、ここからこの犬種の名前が付いた。
人の合図があれば、獲物に飛びかかる。鳥はあわてて飛び立ち、そこを猟師はねらうのである。
猟の巧いポインターは、鳥を猟師の方に飛び立たせる。
合図は、口笛を使うことが多い。
鋭く「フィ」と吹くのである。

○ セッター
セッターも鳥猟に使う。毛足が長いので、寒さに強く、鴨猟に使うことが多い。
セッターもポインター同様に獲物を見つけると静止する。
ポインターのように右足を上げるのではなく、やや前屈みになるのである。
この動作を「セット」といい、この犬種の名になった。

○ ビーグル
ビーグルは主にウサギ猟に使う。
ウサギは犬が近づくとすぐに逃げ出すので、静止の動作はしない。
すぐに吠えながら追いかけていく。
猟の巧いビーグルであれば、山側に回り込み、ウサギを下方に追う。
兎は、登り坂は得意だが、下り坂は苦手であるからだ。
ビーグルというのは「動き回る」という意味である。
スヌーピーはビーグル犬だが、猟に連れていってもらえないので、一日中ゴロゴロしているのである。

○ 紀州犬
和犬は、何でも屋だが、紀州は特に猪猟に使うことが多い。
猪は緒突猛進の言葉があるように、ひたすら一直線に走る。
紀州犬が猪を見つけると、素早く猪の目の前を横切る。
猪は驚いて立ち止まり、犬を追おうとする。i
その時、紀州はサッと草むらに潜む。

犬を見失った猪が動こうとすると、草むらから飛び出し、再び目の前を横切る。
これを繰り返して、猪を釘付けにするのである。

人が近づき、猪が、犬を無視して逃げ去ろうとすると、
今度は、猪の行く手を阻む様に、眼前に出て吠え立てる。決して犬の方から飛びかからない。
それでも、接近戦になったら、ついには喉元に食らいつくのである。
これが留め犬の芸である。
猪は牙を持ち、これですくい上げるので、並の犬では、この牙にやられてしまう。
相当動作の素早い犬でなければ、この芸はできない。
又、ひたすら気の強い犬にもこの猟芸はできない。最初から立ちはだかろうとするからである。
やや臆病で、かつ肝の坐った犬でなければ、この芸はできないのである。
非常に危険な猟芸で、しっぽをちぎられたり、腹に牙を突き立てられたりする犬も出る。
この猟芸のできる犬なら、熊猟にも使えるのである。


犬にとって、狩猟の目当ては、ご褒美の内臓肉、特に肝臓である。
ここが一番美味いと云うことを、本能的に知っている。それ故、内蔵は犬のもの、他の肉は人のものとなる。
内蔵以外の肉は、あまり美味くないので、人はおこぼれをもらうわけである。

犬が骨を好むというのには誤解がある。
骨を好むのではなく、骨の中の骨髄を好むのである。
内臓の次に美味いのが、この骨髄であるから、一日中でも飽きずにガリガリ骨を噛んでいるのである。
ラーメンの豚骨スープは、この骨髄を煮だしたスープである。